理事長 金 修よりご挨拶を申し上げます
企業は人材育成の公器
TVの報道番組で大工さんの不足問題が議論されており、能登地震復興に際して、この課題が大きくクローズアップされてきたと報じられていました。大工さん不足の原因は単純で、適切な待遇です。当たり前です。適切な待遇が対応できていない業界・職種には若い人材は集まってきません。しかし、企業の人材確保のための対応策は、待遇も含めてより複合的ではないでしょうか。
生成AIの本格的な普及期に入り、AIが具体的に生産性向上に資するところが見えてくるに従って、以前から言われていたAIと人との仕事の棲み分けも、正面から取り組む事が求められてきました。
日本の全産業にとって、過去の事例・慣習などによって判断していると、大事な生産年齢人口に当てはまる人材の取り合いの中、特にこれからの若い人材は集まってくれません。
「終身雇用」という言葉は急速に死語となりました。そして「雇用」という言葉には上下関係の響きさえ感じられるようになりました。高度成長時代の既存事業においては、終身雇用なる働く場を提供してきたのかも知れませんが、既存事業の経営環境が厳しくなるに従って、この事が人材をコストと考える背景となったとも言えます。
しかし、これからは「雇用」から「働く場の提供」といった概念に変え、事業継続にとってWin-Winの関係を構築し、そのWin-Winの関係が維持されれば、結果その企業(場)で終身働いたという事になれば良いという事ではないでしょうか。
我が国の人的資本経営の教科書ともいえる人材版伊藤レポート2.0の中で、日本企業は本当の意味で人を大事にしてきたのか?との厳しい指摘と共に、重要な視点の一つとして「As is-To beの定量把握」が示されています。
As isの定量把握は既存事業の維持・拡大のための施策であり、To beの定量把握は新規事業分野に備えるためとも言えます。
リスキリング教育が声高に言われますが、従来のスキルアップとリスキリングでは対応するための準備が異なります。
スキルアップのケースはあくまで既存事業の範囲と考えられますので、スキルアップ目標の設定は、モデルとなる対象が身近におり比較的明確です。従ってその目標が提示できれば、個人の意欲ででも対応できます。
しかし、リスキリングとはこれまでと異なったスキルに挑戦する事ですので、企業としてリスキリング教育に対応するには、新たなスキルを必要とする事業対象やそのタスクを明確にしなければなりません。つまり、この事はその企業にとっての新たな事業創造であり、事業戦略を明確にする事そのものではないでしょうか。
生産年齢人口減に加えて、労働流動性は非常に高くなると考えられますので、これからの人材の確保にとって重要な視点は、企業の人材に関する考え方です。自社のみの人材を考えるのではなく、企業は人材育成の公器との発想で人材戦略を考え、iCDでいう『働く場のタスクの明確化』を図ることによって、人が集まり、人が育ち、定着率も向上、そして良い事業結果も得られるとの好循環が生まれと思います。
As is-To beの定量把握は人材マネジメントの羅針盤と言えます。
協会ではこの定量把握を皆様が少しでも前に進められるようにする為に、人材マネジメント基盤構築のための生成AIの活用や、新たな事業環境に対応したタスクやスキルディクショナリのエンハンスなど、精力的に対応しております。
多くの皆様の活動参加をお待ちしております。
2025年2月吉日
一般社団法人 iCD協会
理事長 金 修